AIで提案書づくりが30分早く終わる。もう1件、仕事を進められる。では、お客さんがあなたの会社を選ぶ理由も増えるでしょうか。城田真琴氏の新刊『AIに潰されないための競争戦略 5つの武器(モート)』(日経BP)を手がかりに、浮いた時間の使い道を考えます。「10分読書」は、話題の本をきっかけに仕事を見直す連載です。
速くなった、その先は
30分早く終わった提案書は、たしかにうれしい変化です。ただ、同じ道具は同業のどの会社でも使えます。全員が同じように速くなれば、その速さは業界の当たり前に近づいていきます。本書の「はじめに」も、これと同じ問いから話を始めています。速くなったその先に、何が残るのでしょうか。
冒頭の30分の続きを考えてみます。浮いた時間で、もう1件の見積もりを出せるようになりました。月末の件数も少し増えました。
ところが半年もすると、取引先から届く他社の提案書も、どれも同じように整って届くようになります。資料の見た目や早さで差がつく場面は、少しずつ減っていきます。
本書の「はじめに」によると、業務の効率化は競合他社も同じように進めます。同じ例によれば、各社のコストと市場価格がともに30%下がる場合には、利益率は変わりません。効率化の効果が、そのまま競争上の差になるとは限らないという指摘です。
背景にあるのは、生成AIが文章・資料・コードといった「知的な成果物を作る手間」を一気に下げたことだと、著者は見ています。
「『作れること』そのものが、急速に希少性を失いつつある」(城田真琴『AIに潰されないための競争戦略』はじめに)
同業も同じ水準で速くなれば、速さだけで差をつけ続けるのは難しくなります。
図解
同業の全員が効率化したら、どうなる?
本書「はじめに」の例によると
「堀」というものさし
では、強みはどこへ行くのか。本書の答えは「消えるのではなく、場所を移す」です。著者は、他社が簡単には越えられない仕組みを、投資家バフェットの言葉を借りて「堀(モート)」と呼びます。そしてAI時代にも残りやすい堀を5つに整理し、自社がどれを持っているかを点検するよう促します。
「AIは競争優位を消すのではない。競争優位の場所を変える」(同 はじめに)
著者は「はじめに」で歴史を振り返ります。計算する道具が電卓や表計算ソフトに変わったとき、計算できること自体の価値は下がりました。インターネットが広まると、駅前という立地の強みが弱まり、検索で上位に出ることが新しい強みになりました。
象徴的な例として挙げられているのが富士フイルムです。写真フィルムの市場が縮んだとき、同社は自社の強みを「フィルムを作ること」から「化学技術と精密な工程管理」へと言い直しました(同 はじめに)。商品が消えても、商品を支えていた力は残るという見立てです。
公開されている目次によると、5つの堀は、業務の正しい記録を握る「マスターデータ」、顧客の日常業務に入り込む「ワークフロー」、顧客との接点や販売経路を握る「ディストリビューション」、他社が自社の上で稼ぐ「エコシステム」、規模を構造的な強さに変える「スケール」です。
そして著者は、AIが生み出す余力を新しい堀づくりに回せるかどうかが、数年後の明暗を分けると書いています。5つの堀の点検の仕方と投資の優先順位は、本の後半で詳しく読めます(本書をAmazonで見る)。

その時短は、誰に届くのか
ここからはTalent Stackの読み解きです。5つのうち、中小企業が手を付けやすいのは最初の3つだと編集部は考えます。自社にしか残っていない記録、お客さんの段取りに入り込んだ仕事、紹介や常連さんとの直接の接点。どれも、AIを買っただけでは手に入りません。浮いた時間を向ける先は、ここです。
たとえば工務店なら、施工の履歴を次の点検の案内に使う。お客さんが修理の時期を逃さずに済むところまでつながって、はじめて記録が日々の仕事の役に立ち始めます。
飲食店なら、どの曜日に何が売れ、どの常連さんが何を好むか。紙やバラバラの表に散らばっているうちは「持っているだけ」です。1か所にまとまり、次の仕入れや接客に使われて、はじめて武器になります。
段取りも同じです。お客さんが毎月の発注を当たり前のようにあなたの会社経由で済ませているなら、安い道具が出てきても、手順を変える手間のほうが大きくなります。
ただし、当てはまりにくい仕事もあります。一度きりの取引や、価格だけで選ばれる仕事では、記録や関係が効くまでに時間がかかります。その場合は、まず「次も頼まれる仕事」を1つ作るところからです。
※この章の工務店・飲食店の例は、編集部による置き換えです。

空いた30分で、一つ確かめる
冒頭の30分に戻りましょう。読む前の問いは「どうすればもっと速くなるか」でした。ここまで読むと、問いは「浮いた30分を、何に戻すか」に変わります。答えは会社ごとに違います。だからこそ、次にAIで時間が浮いたら、その一部で最近の依頼を1つ振り返ってみてください。メモするのは次の1行です。
「お客さんがうちに頼んだ理由は____。その理由を次も届けるために、____を整える」
理由が「速さ」なら、その速さがお客さんのどんな助けになっているか、もう一歩確かめてみてください。
埋まらなかった人は、次の打ち合わせで「決め手は何でしたか」と聞いてみてください。その答えを記録し、次の提案に使うところから始められます。
自分の担当業務に置き換えるなら、「お客さん」を「頼んでくれる同僚」に読み替えても同じ問いになります。
1か月分を書き込める書き込み用のシート(PDF)も用意しました。印刷して机に置いておくと続けやすくなります。
本書が投げかけるのは「AIを導入したか」ではなく、競合が同じAIを入れても選ばれ続ける理由は何か、という問いです。その答えは、会議室ではなく日々の30分の使い方の中で、少しずつ形になっていきます。
図解
浮いた時間を、次の仕事の改善へ
編集部の読み解き:4まで回したら、また1へ戻る
- 01AIで手間を減らす資料づくりや記録の作業時間が浮く
- 02記録・段取り・接点を整える浮いた時間の一部を、どれか1つに注ぐ
- 03次の仕事で使い、結果を残す整えた記録を案内や提案に使い、反応を記録する
- 04やり方を直す手順やAIに渡す情報を見直し、また1へ戻る
読後の要点
同業の誰もが同じAIを使えるようになると、効率化だけで差をつけ続けるのは難しくなります。本書は、AIの普及で強みが生まれる場所が変わると説き、余力を新しい堀づくりに回せるかが明暗を分けるといいます。編集部の提案は、浮いた時間を記録・段取り・お客さんとの接点に向け、次の仕事で使いながら直していくことです。
この記事で取り上げた本
この記事は、出版社が公開している内容紹介・目次・試し読みや、公開された書評・インタビューなど、公開されている範囲をもとにしています。続きは本書で読めます。
AIに潰されないための競争戦略 5つの武器(モート)
Amazon で見る →
参考にした情報源
本記事は、出版社が公開している「はじめに」・目次・内容紹介と公開書評をもとに構成しています。身近な仕事への置き換えは編集部の解釈です。
著者プロフィール

岩崎正宏 (MANTA)
関西の飲食企業で広報・マーケを担当。映像制作・写真・SNS運用・AI活用の実務
中堅飲食グループの広報・マーケをしながら、UNLEASH TALENT で映像制作とデザインを手がけています。大事にしているのは「伝わるか」。見た目のこだわりも、AIを使った効率化も、ぜんぶ"伝える"ための道具です。YouTube(@MantaTV)、長福寺の次期住職、4歳の娘の父——いろんな顔で、現場で本当に効いたことだけを書いています。

