社長から「うちも動画を始めよう」と言われ、カメラとマイクの見積もりを集め始めた。そんな場面を思い浮かべてください。映像作家の山本輔氏の新刊『成果を最大化する インハウス動画制作 スタートガイド』(技術評論社)を手がかりに考えます。社内で動画を作るとき、最初に用意すべきものは本当に機材でしょうか。本をきっかけに仕事を見直す連載「10分読書」、2回目です。
最初に買いたくなるもの
動画を始めると決めると、まずカメラやマイク、編集ソフトを調べたくなります。道具がそろえば、いい動画が作れそうな気がするからです。ところが本書は、冒頭の見開き「インハウス動画制作で『やるべき』7つのこと」で、いきなり機材をそろえないよう勧めています。最初に必要なのは別のものだというのです。
本書によると、最初から機材やソフトをそろえようとすると、初期費用だけでも80万〜100万円かかります。さらに見落としがちなのが人件費だといいます。
そのうえで著者は、小さく始めることを勧めます。
「まずは手持ちのスマートフォンで会議室から始めてみましょう。」(山本輔『成果を最大化する インハウス動画制作 スタートガイド』冒頭の見開き「インハウス動画制作で『やるべき』7つのこと」)
見た目の質を上げるいちばん簡単な方法としても、高い機材ではなく「カメラを三脚に固定し、一切動かさないこと」を挙げています。手ブレは、見る人にとって雑音になるからです。
道具を先にそろえても、何を撮るかが決まっていなければ、動画は前に進みません。

「誰に何を」を先に決める
本書が最初に決めるよう説くのは、目的とゴールです。目的は「誰に何を伝えるか」、ゴールは「何秒の動画を、いつ、どこで公開するか」。著者は、会社で作る動画は自分を表現するためではなく、商品を広めたり、知識を伝えたりするためのものだと位置づけます。ここが決まると、撮り方も長さも自然に決まっていきます。
「動画は“目的達成のための手段”です。」(同 1章)
本書は動画の目的を「売る・広める」「伝える・教える」「感じさせる・考えさせる」の3つに分け、区分ごとに表現の仕方も、見る人を動かす道筋もまったく違うと説明します。たとえば採用の動画なら、会社の文化や職場の雰囲気を自然に伝えることが大事になる、という具合です。
公開されている目次にも、「動画制作の成否を決めるのはスキルよりも『企画力』」という節があります。撮影や編集の腕より先に、何のための一本かを決めることが成否を分ける、という考え方です。
本書は、外注と社内制作のどちらが得かや、作業を特定の人に頼りきらない編集の流れ、AIに任せるところと人がこだわるところまで扱っています(本書の内容・購入情報を見る)。
図解
企画で決める4つ
公開資料を参考にした編集部の整理
- 01誰に届けるどんな毎日を過ごし、何に困っている人か
- 02何を伝えるその人に、一つだけ持ち帰ってほしいこと
- 03長さ・日時・場所何秒の動画を、いつ、どこで公開するか
- 04撮る内容入れる場面と、入れない場面を決める
1分しか見ない人のために
目的が決まったら、次は見る人の姿をはっきりさせます。本書は、見る人を年齢や性別だけではなく、どんな毎日を過ごし、何に困っているかまで具体的に描くよう勧めます。そして大事なのは「何をするか」より「何をしないか」を決めることだといいます。描く相手が決まると、入れない場面も決まります。
本書はさらに、作り手の理屈で企画せず、「1分しか見ない人」のために設計するよう説きます。最初の30秒で何が伝わるか、その先の30秒で興味を引き続けられるか、最後まで見る理由はあるか。この3つを確かめる、という考え方です。
「視聴者目線とは、優しさではなく戦略です。」(同書 3章)
本書は、社内でカメラが得意な人や声のいい人を、業務の外の手伝いにせず、業務時間を割く正式なメンバーにするよう勧めています。
ここからはTalent Stackの読み解きです。中小企業に置き換えると、たとえば飲食店の新メニューの告知なら、「仕事帰りに一人で寄る常連さんに、限定の一杯があることを伝える」と一文で書けるかどうかです。書けたら、その人が最初の数秒で見たいのは店の歴史ではなく、湯気の立つ一杯だと分かります。
※この章の飲食店の例は、編集部による置き換えです。

カメラを買う前の2行
冒頭の見積もりの場面に戻りましょう。最初に用意すべきものは、カメラではありませんでした。「誰に何を伝えるか」と「何秒の動画を、いつ、どこで公開するか」を書いた2行です。この2行があれば、手持ちのスマートフォンでも始められます。次に作る動画について、まずこの2行を書いてみてください。
「この動画で、____に____を伝える」「____秒の動画を、____に、____で公開する」
書けたら、もう一つだけ確かめます。予定している長さの途中で見るのをやめた人にも、何が伝わるか。伝わらないなら、撮る前に企画を直すほうが早くすみます。
2行がすぐに書けないときは、それ自体が大事な発見です。機材の見積もりを集めるより先に、社内で「この動画は誰のためか」を話し合う時間を取ってください。
本書が投げかけるのは「どの機材を買うか」ではなく、何のための一本かという問いです。その答えが先にあれば、道具は後から選べます。
図解
2行にすると、撮るものが見えてくる
編集部が作成した仮の企画例(飲食店の新メニュー)
- 01目的仕事帰りに一人で寄る人に、期間限定メニューを知らせる
- 02公開15秒の動画を、提供開始日の夕方にInstagramで公開する
- 03構成料理 → 価格 → 提供時間の順に見せる
- 04入れないもの店の歴史やスタッフ紹介は今回は入れない
読後の要点
社内で動画を作るときに最初に決めるべきは、機材ではなく「誰に何を伝えるか」と「何秒の動画を、いつ、どこで公開するか」の2つです。本書は、社内の動画は表現ではなく目的を達成する手段だと説き、手持ちのスマートフォンで小さく始めることを勧めます。決めることを先に決めれば、撮る量も迷う時間も減っていきます。
この記事で取り上げた本
この記事は、出版社が公開している内容紹介・目次・試し読みや、公開された書評・インタビューなど、公開されている範囲をもとにしています。続きは本書で読めます。
成果を最大化する インハウス動画制作 スタートガイド
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参考にした情報源
本記事は、出版社が公開している「はじめに」・目次・内容紹介と公開書評をもとに構成しています。身近な仕事への置き換えは編集部の解釈です。
著者プロフィール

岩崎正宏 (MANTA)
関西の飲食企業で広報・マーケを担当。映像制作・写真・SNS運用・AI活用の実務
中堅飲食グループの広報・マーケをしながら、UNLEASH TALENT で映像制作とデザインを手がけています。大事にしているのは「伝わるか」。見た目のこだわりも、AIを使った効率化も、ぜんぶ"伝える"ための道具です。YouTube(@MantaTV)、長福寺の次期住職、4歳の娘の父——いろんな顔で、現場で本当に効いたことだけを書いています。
